環境学研究所 >> エネルギー環境教育実践
ESD・環境教育研究で示した方法論に基づいて、教育プログラムを創出するとともに学校や地域社会で実践しています。なかでも、安定的なエネルギー利用のための教育・啓発活動に力を注いでいます。
制御の科学を応用してESDを進めるとき、まず、教育課題に即した制御系を示します。安定的なエネルギー利用が課題の場合、制御系を図1のように想定します。ここでは、地球温暖化および化石燃料の枯渇に対処するために、「エネルギー」を制御変数とし、その目標値を「安定的なエネルギー利用」としています。なお、安定的なエネルギー利用とは、環境保全と天然資源の持続的利用という「基盤安定」の条件に照らして、太陽エネルギーのような再生可能エネルギーだけで学習者が利用するエネルギーを賄える状態と捉えることができます。また、制御方策は、学習者がかかわるエネルギー利用を再生可能エネルギーだけで賄えるように、省エネルギーおよび再生可能エネルギー利用を促進するさまざまな行動変化になります。
私たちは、直接的・間接的にさまざまなエネルギー利用にかかわっています。それらの中でも生活者にとって最も身近で直接的なエネルギー利用の場である家庭に注目して、安定的なエネルギー利用のための教育プログラムを作成し実践しています。教育プログラムは、下記の学習活動の中から適宜選択して構成しています。
2つの対照的な家庭を比較することで、家庭のエネルギー利用を改善する具体的な方法を見出す学習活動です。
進め方は簡単です。まず、「エネルギー浪費型家庭(A)」と「エネルギー有効利用型家庭(B)」を描いた2枚1組のイラストを各グループに配布します。各グループのメンバーは、2枚のイラストの異なる点を探しながら、2つの家庭のエネルギー使用量が異なる理由を、自分たちの家庭とも比べながら考え話し合います(写真1)。10~15分後、各グループの代表は、話し合いの結果を順に1つずつ発表していきます。たとえば、「Aの照明は白熱電球だが、Bでは蛍光灯を使っている」「Aでは洗濯物を乾燥機で乾燥させているが、Bでは天日干しにしている」といった具合です。ちなみに、AとBには20以上の相違点があります。
このエコライフ探しは、ESD・環境教育研究で示した「学習者の能力・意欲を高める要素」に対して次のように貢献します。「エネルギー浪費型家庭(A)」は学習者共通の制御変数に相当し、「エネルギー有効利用型家庭(B)」は目標値に相当します。よって、2枚のイラストを比較する過程で、「制御変数と目標値を理解」できます。それと同時に、「照明は電球よりも蛍光灯にする」「洗濯物の乾燥は乾燥機ではなく天日干しにする」といった制御方策に気付くことができます。よって、「制御方策の計画能力向上」にも寄与します。
電力量計(ワットアワーメーター)を用いて、身近な電気製品の消費電力・待機電力を測定する学習活動です。写真2(a)では、白熱電球と蛍光灯の消費電力を比較測定しています。写真2(b)では、テレビおよびラジオ付CDプレーヤーの消費電力・待機電力を測定しています。
電力量計による測定で、どこでどの位のエネルギーを消費しているかが明瞭にわかるので、「制御変数の理解」につながります。また、測定の過程で、「白熱電球を蛍光灯に替えればエネルギー消費が減る」「待機電力を減らすには、使用していない機器のプラグを抜く、あるいはスイッチ付き延長コードを使うとよい」といったことがわかるので、「制御方策の計画能力向上」にも寄与します。
さらに、この電力量計は、電力量をCO2排出量に換算表示することができます。そのため、エネルギー利用という制御変数と地球温暖化という問題を密接に結びつけることで、「制御変数と問題との関係を認識」することにつながります。また、電力量を電気料金に換算表示することもできるので、「エネルギーの節約=お金の節約」という「制御による直接的利益の認識」にも貢献します。
エネルギー供給の中でもその大半を占める化石燃料(石油・石炭・天然ガス)の使用が地球温暖化や化石燃料の枯渇化を引き起こします。地球温暖化については、気温上昇に伴って海面上昇や異常気象などが深刻化することが危惧されます。また、化石燃料の枯渇化は、エネルギーの需給逼迫による社会的混乱につながるおそれがあります。これらの因果関係を理解・実感できるように、視聴覚教材の活用やクイズ形式の参加型学習を取り入れています。
なお、化石燃料使用の悪影響を理解・実感することは、「制御変数と問題との関係」および「問題と外乱」を認識することになります。その結果、行動変化を可能にする意欲の向上が期待できます。
省エネルギー技術や太陽エネルギー利用技術を活用することの意義を実感できるような実験です。写真3(a)では、手回し発電機を使って白熱電球、蛍光灯、および発光ダイオード灯(LED灯)を点灯させています。これによって、蛍光灯は白熱電球に比べてはるかにエネルギー利用効率が良いこと、LED灯は蛍光灯よりもさらにエネルギー利用効率が良いことを実感できます。写真3(b)では、太陽電池とミニオルゴールをつないで音楽を聴いています。
これらの実験によって、技術活用の制御方策、具体的には「照明は電球よりも蛍光灯やLED灯にする」や「太陽電池を利用する」の有効性を実感できます。その結果、「制御方策の計画能力向上」に寄与します。
家庭でのエネルギーの有効利用をめざす教育の最終段階は、実際に家庭のエネルギー利用を改善することです。そこで、エネルギー利用改善計画の立案、および各自が家庭に戻って計画を実行することも重要になります。
行動の計画と実行は、「制御方策の計画能力向上」および「制御方策の実行能力向上」に寄与します。
上記の学習活動からいくつか選んで組み合わせ、対象者の特性や制限時間に応じたプログラムを作成し実践しています。なお、教育実践時のアンケート結果は、顕著な学習効果を示しています。たとえば、600人以上の小中学生が参加した一連の授業では、実践後に過半数の参加者から、自らのエネルギー利用を改善したいという趣旨の意思表明が寄せられました。これらの結果は、考案したESDの方法論の有効性を証明するものといえます。
An Educational Methodology for Sustainable Development
Fujihira, K. & Osuka, K., 2009, ICCAS-SICE 2009 Final Program and Papers, ISBN 978-4-907764-33-3, Fukuoka, Japan, August 18-21, 2009
制御理論を応用した持続可能な開発のための教育の方法論とその有効性の確認
藤平和俊・大須賀公一・吉岡崇仁・林 直樹, 2008, 環境教育, 18巻1号, pp. 17-28.